子どもたちがのびのびと、自分らしく過ごすために
写真右:巡回相談員 川平 夕子さん(公認心理師・社会福祉士・保育士)
宜野湾市の住宅街、保育園の2Fにひっそりと構えるオルタナティブスクールKleine Shule(クライネシューレ)は、NPO法人ほのぼのスペースが運営する小さな学び舎。臨床心理士・公認心理師によるカウンセリングと、独自のカリキュラムに則った学習支援で、子どもたちが不登校でもそうでなくても社会と関わりながら学ぶ場を提供しています。
もうひとつの学びの場所を
NPO法人ほのぼのスペース代表理事
臨床心理士・公認心理師
棚原 桂 さん
Q.ほのぼのすぺーすさんの設立の背景を教えてください。
棚原 ほのぼのすぺーすは、今から10年以上前に臨床心理士の先輩が立ち上げたNPO法人で、不登校、ひきこもりなどの問題を抱える子どもたちと、その家族を支援するために設立されました。ここ数年は活動を休止していましたが、スタッフの1人だった私が、昨年4月に引き継いで再開しました。再開のきっかけは、これまでも多かった不登校がコロナ禍で更に増加したこと。そして、スクールカウンセラーとして勤務していた中で、不登校の子供たちが「自分が悪い」「頑張らないと」と自分で自分を追い込んで無気力になっている姿を見て危機感を感じたことです。県内にもフリースクールは色々ありますが、不登校の原因は一つだけなく、いじめや成績不振、コロナ禍による休校、発達障害など様々。少し休憩してエネルギーを貯められたら学校に戻れる子、発達障がいなどによりそもそも集団が難しい子など対応も個別に必要す。だからこそ、臨床心理士・公認心理師として、学校に行けないことで自分を責める子供たちに「学校だけじゃなく色々な道があるんだよ」ということを示すために、私がそういう場所を作ることにしたのです。
Q.オルタナティブスクールとは何ですか?フリースクールとの違いは?
棚原 フリースクールというと、不登校の子供が行く場所というイメージがついていて、子供たちも対抗感があるので、オルタナティブスクールという言葉を使っています。オルタナティブスクールとは、「もうひとつの学校」「代わりの学校」という意味で、独自の学習カリキュラムを持ち、色々な大人と接することで社会と関わりを作ることが出来る場所です。海外では不登校関係なく学ぶ場の選択肢のひとつとして、オルタナティブスクールが定着しているところもあります。クライネシューレは、小中学生を対象としたオルタナティブスクールで、臨床心理士・公認心理師のサポートを受けながら、少人数の落ち着いた環境で勉強ができる小さな学校です。学校の教科書や課題を中心に、学年を超えて本人の興味や発達段階に応じた学習指導が受けられ、放課後には部活動もあります。
不登校の原因は一つだけじゃない
Q.不登校支援の内容を教えてください。
棚原 私達は心理士でもあるので、アセスメントを大事にしています。不登校に至る背景はバラバラで、一律な方針では上手くいきません。子供も親もここにたどり着くまでに試行錯誤を重ねて失敗が怖くなっているケースが多く見られるので、「休息」「医療」「体験プログラム」「学習支援」など、今何をしたら上手くいくかを慎重に見極める必要があります。
そこで大切になるのがカウンセリングですが、小学生は言葉でのカウンセリングが難しいため、プレイセラピーや箱庭療法を用いることがあります。プレイセラピーは実際に様々なシーンで活用されていて、実際に、震災を経験したり、事件や事故に巻き込まれた子供たちが遊びの中で自身の体験を表現することでトラウマを克服していったケースもあります。
言葉でのやり取りがしっかり出来る中高生は、「自分は何をやっても上手く行かない」という信念を抱いて日常生活に不適応を起こしてしまったり、行動できなくなるケースが多いので、認知行動療法などが有効な場合があります。
Q.発達段階に応じた困りごとにはどんなことがありますか?
棚原 小学校に上がる前は、親との関係性がとても大きく分離不安などがあります。
学齢期に入ると、それまで家庭や保育園、幼稚園などで比較的自由に過ごしてきたのが、急に一日中机に向かって時間割通りに勉強するという様に環境が激変して、周りと比べて字が書けない、ずっと座っていられない、いじめなど、様々な問題が発生します。またこの年代のお子さんは大人への関心が強く、先生や親など大人から褒められたり怒られたりすることを重要視しがちです。
思春期以降は、大人ではなく同級生に認められることが重要になり、そこを乗り越えにくい子供たちがいます。真面目な子ほどしんどくなりやすく、我々も慎重な対応が必要です。この仕事を20年以上やっていますが、昔のやり方では厳しくなっていることを感じています。
あなたはひとりじゃない。
Q.現在はどのような課題がありますか?
棚原 子供たちがここに足を運ぶまでに時間がかかることです。特に学生時代は学校が世界の全てになってしまっていて、「自分はこういうところに来るような駄目な人間ではない」と拒否することで結果引きこもってしまうケースが多く見られます。
沖縄は特に経済力など家庭環境の問題が多く、コロナ禍で生活リズムが乱れたり、考える時間が増えたことで不登校が増加しています。しかし、不登校でひとり苦しんでいるお子さんに「あなたはひとりじゃないよ」といくら言葉で言っても、響きません。外に出て、誰かと楽しく勉強したり、仲間ができたり、進学していく先輩を近くで見たりすることで、ちょっとずつ前向きになれるのです。
子供たちには、家庭以外にも安心して他者と過ごせる場所、様々な経験ができる場所が必要だと感じています。私自身には子供が3名いて、個性も様々です。子供たちにはそれぞれの個性に合わせた進路を選んで欲しいので、全日制の高校でも通信制の高校でも本人達に合った環境を選んでもらえたらと思っています。価値観が多様化している今の時代、普通校への進学や学校復帰だけを目標にするのも限界があります。だから世の中の認識を変えて、子供が自分で自分の居場所を自由に選択出来るような社会を創り、「不登校」という名前をなくすことが目標です。
Q.中高生とその保護者の方々へメッセージをお願いします。
棚原 不登校の問題は、お子さんも保護者の方も「自分が悪い」「自分のせいだ」と自分を責めがちですが実際は誰も悪くは有りません。皆頑張っているし、最近は頑張りすぎてエネルギーが枯渇している状態も多く見られます。悩んだ時は、外に相談してみましょう。課題を客観的にみられるようになるかもしれませんし、なにより、大人が気持ちにゆとりを持つことで、子供たちが楽になることがあります。親も子も、悩みを受け止めて一緒に考えられる仲間が必要です。今は様々な相談機関がありますし、ほのぼのすぺーすでも、休止していた親の会、保護者相談会を再開しますので、ぜひ相談に来て下さい。
オルタナティブスクール×カウンセリング×放課後学習サポート
NPO法人
思春期・青年期心理サポートセンター
ほのぼのすぺーす
〒901-2203 沖縄県宜野湾市野嵩3-22-1
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